今日は「父北村雨垂とその作品」(42)を掲載します。
父北村雨垂とその作品(42)
“道化師”
(この作品は、前に既に掲載してあるかも知れません。父の作品が書かれたノート数冊の中には、改めて自分の句をまとめ直したものもあるようですので、重複するかも知れませんが、ご容赦ください。)
道化師に遂々こういん状が来た
ピエロ見ろ油一滴水に浮く
群集の髑髏に踊るおまえはピエロ
いっぱいに夕陽を浴びたピエロは泣かぬ
プリズムの眼球が欲しい私もピエロ
かまきりのこれもピエロの夫婦だな
赤いテープだ黒いテープだ道化師だ
君もピエロに僕もピエロだピエロだよ
いちまいの中間(あい)を駆ける革命児
父をみた夢に革命児は泣いた
現にある風が姿をまだ見せぬ
いっぽんの白毛ぴたりと夜具の褾(えり)
遠吠も私のいのちも夜にゆれる
恋の娘よ私は生死を課題とする
あるじなき椅子は夕焼をみてゐたり
メロンいいいえ下水のメタンです 未発表
相手の缼けた定規だ泣きなさい
“正午”
群集の悲劇が正午の下で喚く
正午そのとき別に驚きもしない
歩く正午夢は正午と歩るかうとする
宿命の正午がはっきりとしない
追憶の足跡よ私の正午よ
虚構の苔(こけ)が私の正午の衣装
正午のあけぼのたそがれの正午が自轉
下降上昇なんと正午のうるさいこと
べんしょうの諸君みたまへ無精卵
(この句も、「辯證の諸君見給へ無精卵」という句で掲載してあると思います。この句は『現代川柳ハンドブック』(尾藤三柳監修日本川柳ペンクラブ編、1998年、雄山閣)では父の句の代表作とされています。)
私の場所を忘れて演劇に泣く 未発表
くさむらにぬしなきボール陽をあびて 未発表
てっとうてつびけふのぐうぜん 未発表
納得のゆかぬいのちに落葉して 未発表
遂にアポリア冬のせせらぎ月あるのみ 未発表
月を背に吾が影を踏む冬も踏む 未発表
冬余りいい月でブランコに乗った 未発表
吾が道と往くこの冬を流れ星 未発表