今日は、私が昨年4月から船越教会の牧師として働くようになってから、確か昨年11月頃からだったと思いますが、なか伝の機関紙に私の文章が載ったことによって、私が船越教会にいることを知って来るようになり、最近は毎日曜日礼拝にみえていますSさんの創作童話を、Sさんの了解を得て、この私のブログに掲載します。
『神の島』 さとう・ゆう作
青い海原に一つの小さな島がありました。島の周りは約20キロ、北側には小高い山が、近くの平地には畑を耕す人、南側の海辺には魚をとる漁師が住んでいました。百人ほどの人たちは皆怠け者で、おまけに互いに仲が悪く、事あるごとにけんかばかり、畑は草ぼうぼうで荒れ放題、魚を捕る船は壊れ網もボロボロでした。年寄りや子供たちは、いつもおびえていて、陰にかくれるようにビクビクしながら過ごしていました。そんな状態ですから、島の人たちは、僅かばかりの食料でその日その日を生活していたのです。
そんなある日、北側の男が南側の男ととっくみ合いのけんかをしてしまいました。何でも畑の作物を盗んだ盗まないとかで争っていたのです。それを、大勢の人たちが、お互いにののしりあっているのです。それを眺めていた山に住んでいる白い髭のおじいさんが、
「よさないか」
と、中に入って仲裁をしています。でも、それにもかかわらずけんかをしています。
「うるさい、じいい、ひっこんでろ」
「お節介な じじい」
と、仲裁に入った老人を突きとばしているのでした。それで。白いひげの老人は、呆然としながらけんかを眺めていました。
毎日がそんなようなことでしたから、子供が魚の干物を盗んで大人たちから袋だたきにされたり、ヨロヨロ歩く年寄りを邪魔だと突きとばしたりする人を見ては、白いひげのおじいさんが現れて、なだめるのですが、そんなことにはお構いなく島の人たちは白いひげのおじいさんのことを
「じゃまだ」
「あっちへ、行け」
と、相手にしませんでした。
それからしばらくたって、お節介の白いひげのおじいさんの姿が見えなくなりました。
「あの、うるさいじじい、どうしたんだろう」
口々にそう言うのですが、おじいさんは現れなかったのです。それから島の人たちはおじいさんのことを忘れていました。
一月ほど経ってのある日のこと、そのおじいさんがみんなの前に現れました。島の人たちは
「おや・・・・久し振りだなおじいさん」
「どうしてたんだ」
と、たすねますと、おじいさんはニコニコしながら、
「おう、わたしか、わたしはのう、神の島へ行っていたんじゃ・・・・・」
島の人たちは
「何・・・・神の島とな?」
「それ、何のことなんかいのう・・・・?」
とききますから、おじいいさんは
「そうじゃ、神の島、そこには毎日暖かな陽がふりそそいで作物は自然と育つんじゃ。それに、海に網を入れると、沢山の魚がとれる。その島の人たちはみんなニコニコ、けんかをするものなんかひとりもおらん、みんな仲よく暮らしているんじゃ」
それを聞いた島の人たちは、信じられないような顔をしています。
「作物が自然に育つ、魚が沢山とれる、そんな島があるんだ・・・・」
「まるで、天国みたいなんじゃのう」
そういうのです。おじいさんは
「そうじゃ、天国なんとじゃ。それになぁ。山には泉があって、そこからうまい酒がわいているんじゃ」
と言いますと
「何と、酒がわいてる・・・・?」
「それ。本当かぁ・・・・」
と、驚きの声をあげています。おじいいさんは
「そうじゃ。本当じゃ。わたしはこの目で見てきたんじゃ」
おじいさんはうなずいていました。
その話を聞いた山側のボスと海側のボス
「そんな島、どこにあるんだ?」
おじいさんは
「ここから東、約300キロ離れた所なんじゃ」
と言うので、もう一人のボスが
「おれたちにも、その島へいけるのか?」
と言いますから
「ああ、行けるんじゃが」
そう言ってから
「ただし、この島全員が行かなければ、その島には行けないことになっている」
と言うのです。島には老人子供たちをふくめると100人以上の人がいます。そんなに大勢の人たちが乗れる船はこの島にはありません。
おじいさんは言います。
「神の島に行くには、この島全員が乗れる大きな船が必要じゃ。何百キロもある荒波にたえられる丈夫な船が必要じゃ。それに、何日も船の上で暮らす水と食料も積んでおかねばならないからな」。
山側のボスと海側のボス、顔をみあわせています。もうけんかばかりしている場合ではありません。
「そうじゃ、おれたちもその島へ行こう」
「百人以上は乗れる船をつくるんだ」
二人は初めて心が一つになり笑いました。
百人以上の人びとが乗れる船を作るには山から大きな木を切り倒さなければなりません。一人の人間では到底出来ませんから、大勢の人たちが協力し合わなければなりません。もう互いにけんかしている場合ではなく、みんな神の島に行けることを願って働きました。山で大木を切り倒す人、船の設計をして、それを組み立てる人、何か月もかかって百人以上が乗れる船が完成しました。老人も子供たちも、船の上で暮らすための食料を確保するために荒れ果てた田畑を耕し、食料の生産に励みました。網を修理して魚をとり干物に加工しました。
何か月も経って、荒れ放題の島には作物が実り以前のような貧乏な暮らしはなくなりました。
「これで、おれたち、神の島にいけるぞ」
「そうだ、あのおじいさんに頼んで神の島へ案内してもらおう」
山側のボスと海側のボスは、みんな引き連れて白いひげのおじいさんの所へ向いました。おじいさんは山の上の小さな小屋に住んでいました。
島の人たちが、その小屋に行ってみると、おじいさんの姿はありませんでした。ただ、一枚の白い紙が貼ってありました。それには、
「この島が『神の島』」
と書かれてあったのです。
島の人たちには、その意味が分からなかったのです。
でも、しばらくして、この島が「神の島」だったと分かったようです。
それからは、あの白い髭のおじいさんは姿を現さなかったのでした。
おわり。
〈あなたの神、主は、あなたの手のわざすべてに豊かな恵みを与え、あなたの身から生まれる子、家畜の産むもの、土地の実りを増し加えてくださる。主はあなたの先祖たちの繁栄を喜びとされたように、再びあなたの繁栄を喜びとされる〉 「申命記」