今日は「父北村雨垂とその作品(102)」を掲載します。下記の句の中にも既に掲載したものがあるかも知れません。
父北村雨垂とその作品(102)
武玉川誌 17に発表
油に 泣いて おとる 孑孑(ぼうふら)
たらいの中の 風景が 踊ている歴史
太陽も タンカーも 孤獨なり 暮れる
鬼(おに)薊(あざみ) あわれ大地の 性器より
紫陽花の風や 老婆の 口籠る
雲を沈めた 富士の あけぼの
風雪や いまも無門の 道租神
対流 2 発表
~ ことばは神と共に在った~ 《福音書》
怨の正午は 零(こぼ)れた 鰯の目玉
労わって呉れた涙も 枕に来たか
竜胆は剪られ 緋鯉は 明日へ 泳ぐのみ
さらさらと 風に 枯葉は 朝と 流れ
浮雲をみたか 野菊は ややに 首を振る
蛇の尾も消えた ゆっくり窓へ 朝
枯れた薄が ささやくも 誰も 居ない
清冽(せいれつ)な ことばの丘に 北風(きた)の天
カトレヤと 薫る バラまで みた 氷雨
墓石も 案山子の夢も 対話を 拒み
眞顔の羊は レーニンを 神に墜(おと)し
歴史は歩るく そこで琥珀と頭脳(あたま)が 歩るく
笹舟の 蟻の目玉に 蠢(うごめ)く 虹
神があって 踊る化石の ペンが あった
“ヱ”と描いて 神(ことば)と並ぶ 狡智の首
対流 3 発表
~ 〈一億分の一秒の 生命〉 ~
灰色の泡沫の 彼女等は 海に 抱かれ
同情も 羞痴も 静い血を ニーチェ
「カー」と啼く 唖者(おし)の鴉に 寺の鐘
キャンバスに 狂気孵らあう 落輝 還らず
白鷺の とまどい勝ちに 黄昏れて
恍惚の雲に 火葬場(ヤキバ)の 乱れた 生花(せいか)
椿 一花 お吉(きち) 泣くなと 背をたたく
天台と知って 咲いたか 蕗(ふき)の薹(とう)
神よ 一億分(いちおくぶん)の一秒(いちびょう)の素粒子が 出たそうな
淵の風よ 笑う 楞厳だ 陽も 石も
常山の蛇は アラブの雲に乗る
猫柳 ニンフは 山羊の乳 盗りに
牡丹に停ち 幾多郎 茂雄の 墓(はか)に停ち