なんちゃって牧師の日記

説教要旨と牧師という職業で日々感じることを日記にしてみました。

判決文(その3)

 判決文(その3)

第3 争点に対する判断

 1 争点(1)(原告が被告の正教師としての地位を有することの確認を求める訴えの適法性)について

(1) 前提事実のとおり、被告の定める規則等において、教師は、「神に召された正
 規の手続きを経て献身した者」とされ、正教師は、「正教師検定試験に合格し、教区総会の議決を経  て、按手礼を領したもの」とされ(教憲9条、教規124条)、「教会または伝道所に在職する」教師 は教会担任教師と呼ばれ(教規128条)、正教師である教会担任教師は牧師と呼ばれ(教規103  条)、「礼拝、伝道および信徒の信仰指導」、「聖礼典の執行」、「結婚式、葬式その他の儀式」の各 「教務を執行する」(教憲104条)とされているところ、正教師の地位それ自体としては、宗教上の 地位であり、法律上の地位ではない。
  原告は、正教師の地位が、―蠡阿垢覿飢颪らの謝儀を受給する権利、⊇蠡阿垢覿飢颪遼匯婀枦銈法ゝ鐔擦掘賃料相当額の保障を受ける権利及び6技嫗狄η金への加入及び年金を満額受給する権利とい う経済的利益を受ける根拠となるものであり、また、と鏐陲砲ける法人の役員ともいうべき役職であ る常議員に就任する権限、ト鏐陲糧鑛餝臀ゞ桔/佑任△觜藩婪箒飢颪梁緝縮魄?銈涼楼未暴任する権 限及びθ鏐陲料躄餤聴?糧鐐挙権資格や教団・教区における教務を行う権限の根拠となるものである 旨主張し、これら全てを包含する意味において、原告が被告の正教師としての地位を有することの確認 を求める訴えは法律上の争訟である旨主張する。
(2) しかし、上記のうち、ー婬啓?觚◆↓∨匯婀枦銈傍鐔擦掘賃料相当額の保障
 を受ける権利及びス藩婪箒飢颪梁緝縮魄?銈暴任する権限については、いずれも、被告とは別個の法 主体である紅葉坂教会との関係における地位であり、被告との関係において、正教師の地位が法律上の 地位であることを基礎づけるものとはならない。
 また、ぞ鏥聴?紛亀30条)は宗教法人法(昭和26年第126号)におけ
 る責任役員ではなく、常議員の就任資格であることは、正教師の地位が法律上の地位であることを基礎 付けるものとはならない。
  さらに、α躄餤聴?蓮教規1条の規定からも明らかなとおり、正教師であれ
 ば必ず被選挙権資格を有するものではなく、逆に必ずしも正教師の地位を要件とするものでもなく、原 告の主張は前提を欠く(宗教法人である被告は、宗教法人としての意思決定に意見を反映させる主体で あるかどうかの区別を、正教師の地位の有無に係らしめているわけではない。)。また、原告が主張す るところの教務が何であるかは必ずしも明らかではないが、前記のとおり、教規104条に定める教務 は宗教上の行為であって、これを行う権限は正教師の地位が法律上の地位であることを根拠付けるもの と解することはできない。
  他方、6技嫗狄η金への加入及び年金を満額受給する権利については、本件
 年金減額決定が無効であることを確認する訴えである請求の趣旨2項の訴えと重複し、これを確認すれ ば足りるのであるから、紛争の抜本的解決として正教師の地位を確認する必要はない。
(3) したがって、原告が被告の正教師としての地位を有することの確認を求める本件訴えは不適法であ り、却下を免れない。

 2 争点(2)(本件年金減額決定が無効であることの確認を求める訴えの適法性)について      
(1) 本件年金減額決定は、原告が被告から受給することができる退職年金を減額する者であり(教師退 職年金等規則16条)、その無効確認請求は、原告の被告に対する将来にわたる退職年金請求権の減額 分に関する請求を包括する趣旨において、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟で あるということができる。
(2) もっとも、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係に関する訴訟であっても、宗教団体内部に おいてされた処分の効力が請求の当否を決する前提問題となっており、その効力の有無が当事者間の紛 争の本質的争点をなすとともに、それが宗教上の教義、信仰の内容に深くかかわっているため、同教  義、信仰の内容に立ち入ることなくしてその効力の有無を判断することができず、しかも、その判断が 訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なものである場合には、同訴訟は、その実質において法令の適用によ る終局的解決に適しないものとして、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないというべきで ある(最高裁判所昭和61年(オ)第943号平成元年9月8被第二小法廷判決、民集43巻8号88 9頁)ため、以下、検討する。
(3) 本件において、原告が本件年金減額決定の無効事由として主張する事由は、本件免職処分が無効で あることであり、本件免職処分が無効であると主張する根拠は、本件免職処分に関する手続の瑕疵   (ア)処分対象行為の不特定及び処分根拠規定の不明確、(イ)戒規申立権者たり得ない者による申立 て、弁明の機会の不付与等、(ウ)不服申立手続きにおける審理者選定の不公正、弁明の機会の不付与 等)及び前例との不均衡(エ)である。
  すなわち、原告は、本件免職処分の無効であること以外に本件年金減額決定固有の無効事由を主張す るものではなく、本件免職処分の効力の有無が、本件年金減額決定が無効であることの確認を求める請 求の前提となっているのであるから、本件免職処分の効力の有無は、まさに本件紛争の本質的争点とな るものであって、その効力についての判断は、本訴訟の帰趨を左右する必要不可欠なものである。そし て、その判断に当たっては、戒規が、原告が主張する手続きの瑕疵や前例との不均衡によって無効とな るかどうかを判断することが必要不可欠であり、さらにその前提として、戒規に係る手続準則が何であ るかを認定、解釈し、違反がある場合の効果を解釈することが必要不可欠である。
  この点について、被告は、戒規の本質及び目的は、キリスト者がキリストの弟子としての道に悔い改 めて立ち帰ること、すなわち復帰にあり、戒規は、単に処分の結果のみを指すのではなく、戒規の申立 てから、処分さらには復帰に至るまでの手続過程全てであり、いずれの段階も教憲、教規に基づく解釈 と運用が行われるのであり、手続規定のみを取り上げて、これを世俗法における市民法原理を適用して 考えることはできない旨主張するところ、前提事実に加えて証拠(甲20、乙21の1、2)及び弁論 の全趣旨によれば、「戒規は、教団及び教団の清潔と秩序を保ち、その徳を建てる目的をもって行うも のとする」(教規141条、戒規施工細則1条)と規定されており、解除、復帰についても「処分をう けたるもの悔改めの情顕著なりと認めたるときは、教師委員会において構成員の3分の2以上の同意を 得て、之を解除することを得」などと規定され(戒規施工細則7条、8条)、また、戒規の目的につい て、「多くの人は、懲罰と戒規との間の区別がはっきりしていません。両者の考えには、非常に意義の ある相違であります。懲罰はなされた悪に報復することが目的です。一方、戒規は、罪に関係した人の 回復を計ることを意図しています。懲罰は、第一義的には、悪に復讐し、正義を主張するのがねらいな のです。戒規は、教会または社会の基準に従って生きることに失敗した人を正すことを意図していま  す。」「戒規の本質的な面としてその目的は常にさ迷い出た聖徒を助け、いやし、回復することにある のです。」と解説する文献もあり(乙21の1、2)、さらに、本件上告の結果を通知する文書(甲2 0)には「この決定を受けて、貴方が悔い改めをもって復帰への道(戒規施工細則8条)に進まれるこ とを願うものです。」と記載されていることが認められ、これらは、被告の上記主張を裏付けるものと いうことができる。
  そうすると、戒規に係る手続準則が何であるかを確定、解釈、違反がある場合の効果を解釈するに当 たっては、戒規の性質に従って審理、判断することが必要不可欠であるといわざるを得ないところ、戒 規の性質は、単なる経済的又は市民的社会事象とは全く異質のものであり、被告の教義、信仰と極めて 深くかかわっているため、結局のところ、被告の教義、信仰の内容に立ち入って審理、判断することが 避けられないというほかはない。したがって、本件訴訟の本質的争点である本件免職処分の効力の有無 については、裁判所の審理判断が許されないものというべきである。
(4) 以上によれば、本件年金減額決定が無効であることの確認を求める本件訴えは不適法であり、却下 を免れない。

3 争点(3)(不法行為に基づく損害賠償請求の訴えの適法性)について

  原告が、不法行為として主張する各行為が不法行為を構成する根拠は、要するに、本件免職処分に関 する手続の瑕疵(ア)処分対象行為の不特定及び処分根拠規定の不明確、(イ)戒規申立権者たり得な い者による申立て、弁明の機会の不付与等、(ウ)不服申立手続きにおける審理者選定の不公正、弁明 の機会の不付与等)であるところ、本件免職処分に関する手続の瑕疵の有無は、前記2と同様の理由か ら、戒規の性質に関する被告の教義、信仰の内容に立ち入ることなくして判断することのできない性質 のものであり、裁判所の審理判断が許されないものというべきである。
  したがって、不法行為に基づく損害賠償請求に係る本件訴えは不適法であり、却下を免れない。

第4 結論

  以上のとおりであって、本件訴えは不適法なものとしていずれも却下を免れない。

  よって、主文のとおり判決する。

               東京地方裁判所民事第31部

                      裁判長裁判官  舘 内  比佐志
               
                         裁判官  杉 本  宏 之

                         裁判官  後 藤  隆 大