今日は「父北村雨その作品(63)」お掲載します。父の中に男女の抒情を歌った句があるのを知って、意外でもあり安心した気持ちにもなりました。
父北村雨垂とその作品(63)
小説 五十句
菜の花や かかる乙女を 創造す
純情の 無智かや ころころと 球は
女は語る 吾稚く 甘えたし
現実が生む 不自然な芽を 愛す
情熱の無言を 聴けり エーテルに
こころ そも何? 亡き母を 汝に乞う
何なのと 眞珠のえくぼ 失えり
おとこのことば おんなのことば 火を宿す
反省を超えた世界で 雌雄 二個
酒 とろり 常識の泡 すでに無し
馬鹿なこと と 恋あり 吾は偽(いつ)わるや
純情か 恐怖か 会うことの 傷(いた)き
鉄壁の 無限を中間(なか)に 甲と乙
一切は 逢(あ)えた事実が ほほえむよ
おぼろ月 女の肩が かく見える
情熱に 美しき日 と みにくき日
愛すれど 触れまじ となり 瞼閉づ
人倫(みち)日えば 肩をたたけば 女 泣く
絶対の世界を 描いておけ 涙
くちびるに 母乳(ちち)の香りを 現在(いま)も置け
明日逢える 別れに 何の淋しさか
悪魔(あくま) かくて 日記におどる 一頁
さまよえるいのち はらはらと 秋は
涙腺のない 人形の知性かも
夢 消える そうして夜も 消えてゆく
おんな 笑う ひとときのこと 地もわらう
美しき苦悶(くもん)を抱ゆ 二個の魂
陽よ射るな 慰(いこ)え 男女(ふたり)は 泣いてゐる
いしくれに 恋の苦悶を 聴かせよう
契り得ぬ恋 蒼空に 泣けと云う
エルテルに 泣きあかしたり 君 わらう
はぐめる愛 君と裁る こころ 枯る
夢 のせて 渦に近づく 笹舟か
獨り居る 苦しき 夜なり 起ちあがる
いしくれの如く すべてを 失うか
別るるや 東と西は 逢う日 あれど
ものすべて ふたつ並ぶに 吾がこころ
草も木も むかしを冬に すすり泣く
追憶を入(い)れる容器(うつわ)は 円錐か
帰り来ぬ女に 郷愁が 愛は
逢う日去り 憂愁ひとり現在(いま)を追う
まぼろしの女は 去りがたき 風情
点の如く 線の如きか 夢の性格(さが)
ひと 敗る 一片の葉と 恋は 地に
脳漿沸(たぎ)り 男とて 笑ひけり
死と対す 向うの丘に 児等 遊ぶ
花粉と雌蕊 珠玉と黄金 相似たり
人むなし 恋愛 むなし 錆びたペン
在りし日よ 地に夢 現在(いま)も 新しい
反省の奥に 自然が 動かない