なんちゃって牧師の日記

説教要旨と牧師という職業で日々感じることを日記にしてみました。

父北村雨垂とその作品(41)

 この頃の父の作品は、日本の国が戦争に突入しつつあった時代ではないかと思われます。その句にはまだ批判精神が表れているように思われます。「佛像に香煙絶えず坊主太る」などは、私も一応宗教家として飯を食ってきた人間としては耳が痛い句です。
 
父北村雨垂とその作品(41)
 
“悲劇”
 
雑林の芽だよ妊んだ土の悲劇だよ
道は霞の中に消へてる悲劇のリュック
悲劇の舞台で國際法とインクとインク消し
悲劇の腹から神様が飛びだした
悲劇の子負うて大平の戦士行く
悲劇の小国をとりまいて学者、軍人
ざるのどじょうもラッシュアワーだ悲劇の科白
神様も紙幣も悲劇だ血みどろだ
星はいっぱい涙をためてみてゐる悲劇
氷の中に一冊の悲劇と白骨と
 
 
デパートに雛が出てゐた妻の話
春は突如と来る蕗の薹だよ
春が来たのだ曲馬團が来た
 
 
佛像ごろり寝てゐる古物商の店舗
佛像のかっと見開いて無用なる眼なり
佛像に香煙絶えず坊主太る
 
轉々と落葉が歩く春の陽に
 
街の祭りだ若人達の情慾だ
踊り子の人形の死んでゐる顔
脱落の純情還りデスマスク
友達のまぶたに描くつれづれや
ふしあなの陽よ佛像の胸を射るな
 
潮騒に私は呑まれてはならぬ
巣だつ小鳥おまえは明日の嵐を知らぬ
朝だ 捕縄を描く 瞼の朝 朝だ
虚妄ひとすじ(ち”)鳴呼血の花を血のつるに
 
深淵に雲を浮べて母も子もなし
踊り子の死んでゐる人形の顔(上記には「踊り子の人形の死んでゐる顔」の句がある)
深淵に歪んだ笑顔私の笑顔
佛像の胸を射る陽だ節穴だ
いしくれよ子のてにひらに意味生れる
楽手のあの白痴の顔をみろよ
夏は消へたはらむ女に罪をみた
をんな愚痴をあしたにも夕べにも
こうろぎに耳を奪られて聖書おく