なんちゃって牧師の日記

説教要旨と牧師という職業で日々感じることを日記にしてみました。

エレミヤ書による説教(109)

    「逃亡」エレミヤ書43:1-7、2018年11月18日(日)船越教会礼拝説教


・何事も真偽の判断、何が真実で、何が偽りなのかを見定めることは難しいことです。


・最近積水ハウスが地面師に63億円を騙し取られた詐欺事件がありました。積水ハウスと言えば、大きな

住宅会社です。土地の売買についは、相当の経験をもっているはずです。たまたま2020年の東京五輪・パ

ラリンピックを控え、都心では不動産価格が上昇していて、都内の約2000屐別600坪)の土地をめぐって

この詐欺事件が起きました。この土地は、積水ハウスの契約相手先が土地所有者から購入後、積水ハウス

に転売する形で、積水ハウスが購入することになっていたようです。事実積水ハウスは63億円の代金を支

払ったわけです。しかし、その土地には所有者を名乗る人とは別の地主がいて、積水ハウスはその土地の

所有権移転登記を受けられないことになって、積水ハウス側は地面師に騙されたことに気付いて警察に訴

えたというのです。このような土地売買に詳しい人によれば、積水ハウスは、契約相手が登記上の土地所

有者から本当に土地を購入したのか、その売買確認を登記上の土地所有者にすれば、だまされることはな

かったと言って、これは書類主義の弊害ではないか言っています。おそらく積水ハウスは、時価より安め

の価格に目がくらんで失敗したのではないかと思われます。そのために偽りを見抜けなかったということ

です。このような地面師に騙される事例が2020年の東京五輪パラリンピックを控え、多くなっているよ

うです。


・これは偽りを見抜けなかったという話ですが、今日のエレミヤ書の箇所では、エレミヤの預言の真実を

偽りとしたユダ残留民を束ねた者たちの振舞いについて描かれています。エレミヤの預言に対して偽りだ

と、ユダ残留民の≪ホシャヤの子アザルヤ、カレアの子ヨハナンおよび高慢な人々は≫はこのように言っ

たというのです。≪「あなたの言っていることは偽りだ。我々の神である主はあなたを遣わしてはいない。

主は、『エジプトへ行って寄留してはならない』と言ってはおられない。ネリヤの子バルクがあなたを唆

して、我々に対立させ、我々をカルデヤ人に渡して殺すか、あるいは捕囚としてバビロンへ行かせようと

しているのだ。」≫(2⒝~3節)と。


・ユダの人々がエレミヤに向けて投げつけた「偽り」という言葉は、実は、エレミヤ自身がその論争相手

にしばしば放った言葉でもあります。例えば14章14節には、エレミヤのこのような言葉があります。≪主

はわたしに言われた。「預言者達たちは、わたしの名において偽りの預言をしている。わたしは彼らを遣

わしてはいない。彼らを任命したことも、彼らに言葉を託したこともない。彼らは偽りの幻、むなしい呪

術、欺く心によってお前たちに預言しているのだ。」≫と。エレミヤは論争相手の預言者を偽りの預言者

だと言っているのです。


・しかし、だれが真実の預言者であり、だれが偽りであるかの判定は容易ではありません。後になってそ

のことが成就したときにはじめて、どちらが本当であったかを悟ることができるからです。


申命記18章22節に≪その預言者が主の御名によって語っても、そのことが起こらず、実現しなければ、

それは主が語られたものではない。預言者が勝手に語ったのであるから、恐れることはない。≫と言われ

ている通りです。


・≪ユダの地に留まれ≫というエレミヤの預言を、偽りだと言い放ったユダの人々が語っているその理由

は、エレミヤの預言の筆記者・書記であるバルクにエレミヤが唆されているというのです(3節)。


・ここでは、バルクは単なるエレミヤの預言の筆記者ではなく、預言者エレミヤに相当の影響力を持つ人

物として扱われています。そして、バルクが、秘かにバビロンに通じて、ユダを壊滅させようとたくらん

でいるのだと断定されています。バルクが、いわば、国家の死活問題について定まった意見を持っている

ことが知られており、エレミヤに対してある程度の影響力を行使したと考えられていたというのです。


・このことが事実かどうかは分かりませんが、少なくともユダ残留民を束ねていた人々はそのように考え

ていたことを示していると思われます。ユダの地に留まれと言って、我々を滅ぼそうとしている張本人は

エレミヤではなく、バルクだというのです。この微妙な言い方の中には、彼らの中にはまだ、神の言葉を

取り次いでくれる預言者エレミヤを疑いたくないという思いがあったのかも知れません。国家が滅亡し、

バビロン捕囚民とユダ残留民とに分断された状況において、ユダ残留民の中にはエレミヤ以外に彼らに神

の言葉を取り次いでくれる預言者がいなかった。そのために彼らはエレミヤを失ったら自分たちが困ると

考えたのかも知れません。


・何れにしろ、ユダ残留民を束ねていた≪カレアの子ヨハナンと軍の長たち≫は、エレミヤとバルクも加

わっていたユダ残留民をまとめて、≪ユダの地に留まれ≫というエレミヤが取り次いだ≪主の声に聞き従

わず、エジプトの地に赴き、タフパンヘスにたどりついた≫(7節)のです。このようにして、ユダ残留民

のエジプトへの逃亡が企てられ、実際に行われたというのです。


・後のユダ残留民の歴史は、エレミヤの預言こそが真実であったことを証明するのですが、偽りの道を選

んだユダ残留民と共に、エレミヤはエジプトに連れて来られます。そして43章8節以下を読みますと、エジ

プトでもエレミヤはユダ残留民に対して神の言葉を取り次いでいるのです。


・偽りの道を選ぶユダ残留民の中にあって、神の示す真実の道を語り続ける預言者エレミヤの孤独と苦難を

思わざるを得ません。けれども、エレミヤは神を信じる者として、ユダ残留民に抗ってでも神にある真実

を指し示し続けたのです。それが神の召命を受けた預言者の使命だと、エレミヤは確信していたからです。


・エレミヤは、神から与えられた自らの命を、孤独と苦難に耐えながら、神の真実を示すために使いました。

その神の真実こそが、エレミヤだけでなくユダ残留民にとっても、バビロン捕囚民にとっても、真の救済に

結びつくと、エレミヤは信じていたからです。


・この神にある終末の希望を見据えて、その終わりの希望をもって、ユダ残留民と共に、エレミヤは破局

的なバビロン捕囚後のユダの人々の歴史を生き抜いたと言えるでしょう。ユダ残留民の置かれた、希望の

見えない暗闇のような状況の中で、ユダ残留民にも備えらえている神の未来の光を、エレミヤは指し示し

続けたのです。


・そのエレミヤの姿は、ある面で十字架にきわまり、神によって復活したイエスご自身の生涯とも重なっ

て見えるように思います。そしてそのイエスは、弟子たちにも、つまり私たちにも≪自分の十字架を背負

って私に従って来なさい≫と呼び掛け、招いています。


・エレミヤがユダ残留民という共同体の一員として生きることが、彼に与えられた課題であったように、

私たちは現在の日本の国家と社会の中で、その民衆(市民)の一人として、またその中にある教会共同体

の一員であるキリスト者の一人として生きています。


・先日久しぶりにテレビで現在自由党の党首小沢一郎が出ている番組を観ました。司会者が安倍政権につ

いて意見を求めた所、小沢一郎は安倍首相の過ちを2点指摘しました。一つは、憲法第9条の拡大解釈であ

る安保法制を成立させて、戦争のできる国にしたこと。もう一つは、小泉内閣からの新自由主義的な経済

政策を進めている、アベノミックスが、経済的な格差を広げていること。政治家がしなければならないの

は、国民の平和を守り、富の公平な分配によって生活を守ることだが、その意味では、安倍首相は国民の

ための政治をしていないと。


・実際安倍首相は、小沢一郎が指摘する二つの過ちによって私たちを偽りの道に導いていると、私にも思

われてなりません。そのことが、私たち日本の社会の中にいろいろな歪を生み出しているのではないかと

思われます。


・ユダ残留民を束ねていた政治的指導者たちは、ユダ残留民を導いてエジプトに逃げていきました。しかし、

エレミヤはその人々と共にいて、彼らが選んだ道が偽りであることを語り続け、彼らの真の救済を示す神の

未来を指し示していったのです。


・人と人との間に格差を広げて、お互いの対立をあおる道ではなく、お互いの違いを認め合って、欠けた所

のある人も、他の人が補い合って共に生きる道こそ、私たちの希望に繋がる道ではないでしょうか。弱者が

切り捨てられる社会には、平和な未来はありません。その道には、再び戦争を起こしかねない、不安で暗い

未来しかありません。その弱者切り捨てが様々な形で、この私たちの日本の社会の中で進行しています。


・一昨日寿地区活動委員会がありました。そこで外国人労働者の支援の運動をしているカラバオの会の報

告を伺いました。その中に27年間日本で働いた外国人が、最近強制送還されることになって、その方が自

分の国に帰って政治的不安を抱えているというのです。その方の強制送還を撤回できない状況なので、せ

めてその方が自分の国に帰った時に、その方の政治的不安に対する現地の支援組織を紹介することしかで

きないと言うのです。一方現在政府は、外国人労働者の受け入れを緩めようとしています。きちっと日本

に受け入れた外国人労働者の人権と生活を保障するシステムを作らないまま、賃金の安い働き手を必要と

している日本の労働現場のニーズに合わせている、安易な政策です。この政策によって、27年間日本で働

いた外国人労働者が強制送還されるようなことが、次々に起こらないとも限りません。フクシマと沖縄の

方々の切り捨てだけでなく、このようなところにも、またその他にも様々なところで弱者の切り捨てが進

んでいます。


・余りにもその現実が重いので、それに抗っていく無力感に私たちは襲われかねません。


・しかし、偽りの中で真実を求める闘いを、エレミヤはバルクと共に、その他には支持者がほとんどない

状況の中で貫いて行ったのです。イエスもまた、ほぼ最後には一人になって、その闘いを貫いたのです。

そのイエスから弟子たちが、「あなたがたは世の塩、世の光である」と言われたように、私たちもイエス

によって「世の塩、世の光」として招かれているのですから、イエスが歩んだ道を、私たちも信じて歩み

を起こしていきたいと願います。今日から始まる新しい一週の歩みも、それぞれが与えられている場で、

担う課題を異なっていても、自分の与えられた荷を投げ出さないで、担い続けていけますように。復活

の主イエスの支えを信じて。